新型コロナウイルスが蔓延し、医療崩壊が起きると騒がれている昨今、医療従事者は必死に日夜戦っており、医療従事者を応援する風潮も出てきている。
しかし、ニュースやネットで取り上げられる医療従事者への差別的発言や不確定な情報などを見ていると、元看護師として医療従事者および医療現場の現状が伝わっていないと歯がゆさを感じていた。医療従事者および医療現場の現状が伝わっていないのだ。
医療現場の現状を皆さんに知ってもらいたいため、感染症指定病院で勤務する現役看護師に取材を試みた。
今回インタビューに協力してくれたAさんは、現在感染症指定病院にて新型コロナ患者の治療にあたっている。
Aさんは筆者が看護師として働いていた時の友人でもあり、完全匿名であればと取材に応じてくれた。
医療崩壊は起こるのか?
――医療崩壊が起きると言われていますが、現場の現状としてはどうですか?
私の病棟は軽症者がホテルへ移動したので、ベッドの空きはある状態です。ただ、今は重症の人しか受け入れていないので、重症者が増えてくると怖いですね。
――空いているベッドの割合はどれぐらいですか? また、軽症者と重症者の線引きはどのような感じですか?酸素投与が必要かどうか?
正確にはわからないですが、病床利用率(注1)は7~8割ぐらいですかね。そうですね。基本的に酸素投与が必要な人です。
――じゃあ、患者さんの数としては、普段と変わらない感じでしょうか。
そうですね。ただ、ICUにもいますし、重症な患者さんが多いと手がかかるので疲労度も高いです。
――なるほど。ICUが埋まると救急が取れなくなる可能性もありますしね。ICUが埋まってきたら挿管患者も病棟で診るという話は出ていたりするのですか?
具体的な話までは出ていないですが、ありえると思います。実際、人工心肺装置や人工呼吸器の台数を確保しているという話は聞きます。
酸素投与は酸素マスクや、鼻の入り口につけるチューブを用いて、口の周りや鼻の周りに酸素を送ることで、吸い込む空気の酸素濃度を高くするために行う。基本的に自分で呼吸できる人に用いる。
気管挿管(人工呼吸器)は、のどの奥(気管)までチューブを挿入し酸素を投与する。呼吸ができなくても肺に直接酸素を送ることができる。気管挿管の管理は高度な医療技術が必要であるため多くはICUなどで管理する。
――それって正直に言って診られそうですか? 救急やオペ室経験ないと人工心肺装置とか診たことないですよね?
正直なところ診られる気はあまりしないです。技術的な部分もありますが、ICUと違って見渡せないので状態が悪くなった際に気づきにくく対応が遅れかねません。救急看護に詳しい人でも怖いと思います。職場でも設備だけ確保してもどうするの?という話はでています。
ICUで診る患者は、重症であり病状が急激に悪化しやすい。そのため患者の状態を把握、迅速な対応をするため、患者を常に見渡せるように病室がなく中央にスタッフの詰所スペースがある。
――現場と上の考えが違う感じですか?
そうですね。そういうのは多々あります。
注1) 病院の平均病床利用率は、厚生労働省の調査では80%前後で推移している。
表では、感染症病床の利用率が少ない。これは指定感染症や新型感染症を対象としているためである。普段は一般病床としてインフルエンザや肺炎患者などを入院させているため、新型コロナを扱っている病棟も病床利用率は80%程度と考えて良い。
厚生労働省 平成30年病院報告より
医療用防護具の不足、院内感染の恐怖
一番現場の不満が大きかったのが、ICT(院内の感染対策チーム)の決定で、N95マスク(注5)は使用しないとなったことです。でも、部屋に入って患者さんと接すると近くで咳を浴びることもあり、怖いのでN95マスクを使っています。
――なるほど、理論的に言えば空気感染ではないですし、サージカルマスクで良いんでしょうが、やっぱり不安ですよね。
そうですね。院内感染も他の病院で起きていますし。安心材料として着けたいです。
サージカルマスクとはいわゆる「使い捨てマスク」ドラッグストアなどで売っているマスクのこと。N95マスクは、空気感染する病気(結核やはしかなど)の患者と接する時に使うマスクで布のキメが細かく空気が漏れないようになっている。長時間使用すると呼吸が苦しいので、病室に入る時のみ使用し、封筒などで保管して1日使う。
――連日院内感染の報道がされていますが、どう思いますか?
正直仕方ないのでやめてあげてと思います。
――感染症看護師として情けないとか言われたらどうしようかと思いました(笑)
そんなわけないですよ。普通の入院患者に紛れて来院されたら防ぎようないでしょ。報道を見ていると医療従事者が悪いと言われているように感じてしまうので、極力見ないようになりました。
ただ、院内感染が頻発すると医療崩壊の話も現実味を帯びてくるので怖いですね。
――外来、救急もストップしますし人員もかなり減った状態でしょうしね。Aさんの職場では人員の補充はないのですか?
救急経験者がこまめに応援で来てくれています。穏やかに終わる日もありますが、患者さんの状態がいつ急に悪くなるかわからないので頼もしいです。
――それは良かった。私も声が掛かれば戻ろうかなとも思いますけど、来ないんですよね。
いやー、ぜひ来てほしいですね。やっぱり感染リスクを考えると感染対策しっかりできる人が欲しいですし。
――機会があればよろしくお願いします(笑) マスクは足りていますか?
足りていないです。N95マスクが使いまわしになりました。
――もともとN95マスクは1日使うのが基本ですが、2~3日使うのですか?
Aさん:えっとですね、ウイルスが3日間生き残るということから、4日目には死んでいるだろうということで保存しておいて4日後に使います(笑)
――笑っちゃっていますけど、えぐいですね。
あるもので今は耐えなければいけないので……。
――防護具はどうですか? カッパを集めているとも聞きますが
カッパね(笑)届きましたよ。夜勤の巡視の時なんかに使っています。
――あれって脱ぐの大変じゃないですか? ボタンでしょうしちぎれないですよね?
前後ろ逆で着てます。後ろでボタンの一番上と一番下を留める感じです。
――なるほど! そう着たらなんとか脱げそうですね。
でも、念のために二人がかりで脱いでいますけどね。そこで人員コストも時間もかかるので、できれば普通の防護具が欲しい。
感染症で使用する防護具は着る際は、どこに触れても良い。
しかし、脱ぐ際はウイルスが着いた可能性がある表面に触れると防護具の意味がないため、脱ぐ際に注意する必要がある。通常の防護具は首元後ろと腰ひもをちぎり脱ぐ。
医療者を取り巻く環境
――病院の外での生活とか周りで変わっていたりしますか?Aさんは一人暮らしですけど、周りの人で家に帰っていないとか。
んー、聞かないですね。帰ったらすぐにお風呂入るとかは話しますけど、実家住みの人も帰っていると思います。そもそも、うちの職場は独身者が多いですし…… (笑)
――なるほど。じゃあ、Aさんの職場では、医療従事者の子どもの登園拒否なんかもないってことですね。
そもそもその年代のお子さんいる人いたっけな?お力になれなくてすみません(笑)
――いえいえ、良いですよ。一人暮らしでも、親からコロナの患者診ていることでなにか言われますか? それこそ、危ないから辞めて戻ってきなさいとか
ないですね。週に1回ぐらい連絡来るので心配はしていると思います。
でも、逆に私が実家には帰らないから! と宣言しているので。
――もし、親にうつしたらと思うと怖いですもんね。
そうですね。自分も無症状なだけで感染していてもおかしくないと思いますし、本当に家にいることが大事だと思います。東京から田舎へ帰る人のニュースを見た時に、怖くないのかな?と疑問でしたね。
――それは思いました。親や祖父母にうつすのもですが、自分が発症したときのことを考えると、わざわざ医療資源が少ない所に行かなくても、と思います。
わかります。結局、都市部の方が病院も多いですしね。
――田舎で感染爆発が起きたら、それこそ医療崩壊まっしぐらですもんね。大体の現状は聞けたと思います。ありがとうございます。
こちらこそ、愚痴みたいなものに付き合ってもらってありがとうございます。
――次は、実際にコロナになったらどうなるの? 入院生活はどうなの?という部分もまだまだわからない人が多いと思うので、そういったお話を聞かせていただければと思います。わかる範囲、答えられる範囲で良いのでお付き合いください。
はい。よろしくおねがいします。
後編はこちら↓
フリーライターや派遣看護師、塾講師などをしながら生きている人。
元ひもだったりもする。