新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、「自粛警察」や「感染者叩き」といった行為が後を絶ちません。
緊急事態宣言が全面解除されたとはいえ、国全体を取り巻くギスギスとした雰囲気は当面解消されないでしょう。
そこで今回は、「暗い世の中で、私たちは今をどう生き抜くべきか」について、浄土真宗の僧侶である順さん(仮名・30代)に語っていただきました。
コロナで法要はキャンセルに。理不尽な言いがかりも経験
団体でのお参りは中止していて、個人でのお参りは今も受け入れているんですが、一人も来ませんね。
早朝から門は開けているのですが……。
月参りといって、故人の月命日に僧侶がご自宅にお邪魔してお経を上げるんですが、それも「遠慮してください」と断るご家庭が多いです。
浄土真宗では檀家・信者を「門徒」と呼ぶ。
やっているところもあるけど、参加者はご家族のみで、親戚や故人の友人を呼んでいるご家庭はありません。寂しい雰囲気ですね。
浄土真宗では、毎月20日に定例法座(常例法座)と呼ばれる法要をしています。
ざっくりと説明すると、「法話(お坊さんのお話)を聞こう」というものですが、全国の寺院で軒並み中止となっています。
私が勤務しているお寺も、3月の中頃から全部キャンセルになりました。
私も、月参りに行ったご家庭の方から苛立ちをぶつけられました。
「キャンセルの連絡は入れましたか?」と聞くと、「はぁ? 入れてないけど、普通に考えてわかるでしょ」と……。
元々はそんな性格の人じゃないんですが、気が立っていたのだと思います。
そういう方を見て、どう感じますか?
ただ、そうやって他人に苛立ちをぶつけている、他人を叩いている人を見ると、かわいそうだなと思います。
「自分が正しいんだ」と他者を攻撃しないと、自分を認識できない。
「自粛警察」なんて言葉がありますが、その人が元から持っている攻撃性に大義名分を得て、己の正義を振りかざしている状態です。
行動よりも、「なぜ他人を叩くのか?」と理由のほうを問題視しなければいけないでしょうね。推測ですが、現代人はそれだけストレスを溜めているのかなと。
一言、「叩くのをやめなさいよ」と言いたいです。
「当たり前」に感謝して生きる
「当たり前」を「当たり前」と思わないこと、でしょうか。
仏教に対して否定的な人に、「仏教は当たり前のことしか言っていない」と言われることが多々あります。当たり前のことに対して、なぜお布施などしないといけないのか、と。
仏教の考えでは、「当たり前のこと」なんてないんです。
「当たり前」と認識するのが間違っている。どんな「当たり前」も、誰かが支えてくれて成り立っているものです。
なぜできないのか。他に気になることが目の間にあるからでしょう。それが今はコロナかもしれません。
そう思ってくれている誰かのおかげで、生きてこられている。親とかね。
それを時々思い出して欲しいなと。
今、僧侶としてできること。伝えたいこと
こんなご時世だからこそ、みんな攻撃的になるんですよね。心に余裕が無いからでしょう。
うちの寺では、普段しないフリーペーパーを作って、少しでも門徒さんたちの慰めになればと行動しています。
不安との付き合い方って難しいですよね。
自粛してる人がいる一方で、していない人がいる。
だから割りを食らった感じがして攻撃的になるんでしょうね。
みんな心の中では「あれしたいこれしたい」と思っているんですよね。
自粛している人にもしていない人にも、心の中で大切に思ってくれている人たちがいる。そういう意味ではみんな一緒ですよ。
さっきも話したように、誰かのおかげで生きてこられている。
私たち僧侶は、今の現実生活の中に落とし込んで話をしていかないといけない。
あなたのことを大切に思っている人がいるんですよ、という点で常にお話をしています。
あなたは決して一人じゃないんですよと。
僧侶としてやることはコロナ関係なく変わらないんですよね。
こんな時期だからこそ、より一層という気持ちはありますが、根幹は変わらないです。
普段だったら取材も、「恐れ多いですわ」と受けなかったと思います。
こんな時期だからこそ、何か力になれればとお受けしました。
最後に、僧侶として世の中の人に今伝えたいことはありますか?
乱暴な言い方をすると、想像力が足りてないなあと思います。
もし自分が原因でコロナにかかって、家族に移して亡くなったら後悔するでしょう?
それを想像しないから、平気で遊び回る。
あなたが原因で誰かが亡くなったら、亡くなった人の大切な人が悲しむし、世の中を恨むことになる。それで今、感染者叩きが起こっているんですよね。
ちょっと想像力があれば、慎重な行動ができるはず。
あなたの周りの人を大切にするためにも、将来のあなたを大切にするためにも、今はご自愛ください。
Twitter上では「コロナ以前の生活がどれだけ幸せだったか気付いた」という意見も多く見られます。
コロナ禍の今こそ、現代人が忘れがちな日常への感謝を考え直す良いタイミングかもしれません。
大学院で歴史学を研究しつつフリーライターとして活動中。研究してない研究者代表。
福岡県出身。関西に魂を売ってしまった女。
小難しい話はもちろん、美味しいもの・可愛いもの・キレイなものが好き。
「日本全国、隣町」を掲げるアクティブ人間。