「特養おやつ死亡事件」の准看護士逆転無罪が、介護現場の未来を照らす訳

社会・経済

2013年12月に起きた、「特養おやつ死亡事件」。
特別養護老人ホームにて入居者の女性がおやつのドーナツを食べた後に窒息し、のちに死亡。
ドーナツを提供した女性准看護師は業務上過失致死罪に問われ、責任や死因の所在を巡って裁判が行われていました。

今月28日、東京高裁での控訴審判決にて、一審で罰金20万円とした長野地裁松本支部判決が破棄され、無罪が確定。この逆転無罪に介護・医療関係者からは安堵と歓喜の声が上がりました。

私もその一人で、ニュースを確認後ツイートするほど。

 

しかし、医療従事者ではない人からすると、「そんなに重要な裁判だったの?」と思う方もいるでしょう。

無罪判決を求める署名が約73万筆に上り、介護現場の未来を変えるとまで言われたこの裁判。
医療・介護従事者にとって何が重要ポイントだったのかご説明します。

判決の根拠が乏しかった

批判を集めた理由のひとつが、一審で有罪判決となった根拠が乏しかったことです。

裁判では、死亡した原因は窒息による低酸素脳症とされていました。
しかし入居者の女性が死亡したのは、ドーナツを喉に詰まらせる事故から1ヶ月後。
弁護側は脳梗塞など別の死因の可能性があったと反論しましたが、死因に関する明確な根拠はありませんでした。

医療従事者は根拠を大切にします。
根拠なく人の身体を弄るのは、とても怖いことだと理解しているからです。

そんな中、根拠が乏しい判決が出たことにより、反発した医療従事者も多かったと思います。

医療・介護現場にゼロリスクを求めるのは不可能

この事件のきっかけは、ドーナツを喉につまらせ窒息したこと。

介護・医療の現場では、喉に食べ物を詰まらせる場面に遭遇するのは少なくありません。
この事件が有罪になれば、誰もが刑事罰に問われる可能性があるということになってしまいかねない。だからこそ医療・介護従事者らが反発したわけです。

また、ゼロリスクを求めることは、医療・介護従事者だけでなく介護を受ける側も被害を被る可能性がありました。
固形物は窒息する可能性があると従事者が委縮し、「おやつはゼリーのみにしましょう」「おやつはなしにしましょう」となれば、施設利用者の楽しみまで奪うことになりかねません。

食事だけでなく、介護・医療現場では高齢者の転倒事故もよく起きます。
それらも、個人が逮捕される可能性があるとなれば、散歩や自由に動くことを制限せざるを得なくなる。
患者や利用者のためにと思いやってきたことができなくなり、介護や医療の現場を大きく変えかねないと言われていたわけです。

看護師である私が思うこと

皆さんに考えてほしいのは、絶対に安全な医療や介護はないということです。
私たちは患者さんや利用者さんが最大限幸せになるために、リスクとのせめぎ合いをしながら仕事をしています。

そのリスクをなくそうとすれば、私たちのやりがいも患者さんや利用者さんの楽しみも奪うことになりかねません。

今回の事件では、約73万筆の署名が集まるなど多くの人が無罪を勝ち取るために動いてくれました。
これを機に医療・介護の現場への風当たりも変わってくれればと思います。